Patchwork

ミレニアル世代(T)とZ世代(M)の音楽談義

Tash Sultana『Terra Firma』を聞いて

Tash Sultana とは

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(M)オーストラリア人の女性ソロミュージシャンで、
薬物にハマっちゃってまともな職につけなかったと。

(T)やばいやつやん笑

(M)それが理由でストリートミュージシャンとして日銭を稼いで生きていたらしい。
その間にYoutubeに上げた『JUNGLE』がバズって、有名になったという経歴。

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(M)音楽的には前に比べてR&Bとかソウルっぽくなったような気がした。

(T)ギターの使い方はアンビエントを意識しているというか、
オクターブディレイとかを多用する感じやな~。
ジャンルレスな感じ、なんて定義すればいいんだろうな。色んな音楽からの影響は感じた。

(M)確かに「これです」って言うのはないよな。
ちなみにSpotifyは「ソウル」にジャンル分けしてた笑

(T)ソウル!?笑、まぁボーカルはソウルっぽいアプローチしてるかもな。  

目次

男性?女性?中世的な声

(T)歌い方が Curtis Mayfield とか Moses Sumney とかソウル系のアーティストに近い感じがしたな。D'Angelo とかも多用する鼻に抜けるような高音の出し方なんだけど、女性で音域が広いから軽やかというか。

(M)ソウルフルな歌い方もあるけどインディー・ロック系の息多めの抜けるような歌い方の影響も感じる。

(T)ソウルを通過した女性で声低めだからそういう風に聞こえるだけって可能性もあるけどな。
NPRのライブとかだとゴリゴリ歌ってる曲もあったな、そういうのもあるんやっていう。

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(M)これは前のアルバムのやつだよね。

(T)そう、ゴリゴリ感みたいなのが抜けたっていうのは前作からの違いかもな。

(M)全体的に聞きやすくなったよね。

(T)そうやな。でもちゃんと聞くと凝ったことやってるっていうところを次で。

楽器の抜き差しで作る

(T)『Crop Circles』のさ…

(M)あー、もうどこか分かったわ笑

(T)1番の終わりでバッと止まってピアノ入ってくるやん?

(M)そこ、超かっこいいよね。

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(T)ドラムそこで入ってくる?みたいな笑
で、サビが来るかと思いきや、ホーンセクションが来るという。

(M)ジャンルレスなのは音的にもだけど展開的にもだよね。
「次サビかな?」とか「次こうかな?」みたいな予想を裏切ってくる。

(T)ルーパーを使ってるからずっと循環コード進行やん?
その中で曲の展開を作っていくとなると、コードでつけられないから展開でつけていくしかない。だから楽器の抜き差しで差を出すみたいな。

(M)それはあるな。
ルーパーでずっと同じ展開で行くのって不安じゃん?作ってる側として。

(T)わかるよ。

(M)ドラムトラックがあって、ベーストラックがあって、上モノが3つあったとして、
ドラムトラックだけで8小節くらい場を持たすのって結構不安だったりする。
だから4小節いかないくらいで、どんどん追加していくみたいになって結果、展開が小刻みで多くなってるんだろうな。

(T)そうやな、展開で驚きを作ってるから全然飽きないな。

(M)そこが最近のR&Bにありがちなコード繰り返しで展開も少ない曲との違いだよね。

新しい「ネオソウルギター」の形

(T)最近 Tom Misch とか FKJ とか「ネオソウルギター」っていう文脈のSNS発のギタリストが増えてきたやん。めっちゃかっこいいけど、悪く言うと肉体的じゃない、ジミヘンみたいなアーシーな感じがないと思っていて。

(M)なるほど。

 (T)でもTashはそういう泥臭さを「ネオソウルギター」に入れてもかっこいいんだよっていうのを提示してて好きなんよな。

(M)「ネオソウルギター」の人たちって基本的に単音のフレーズをクリーン、もしくは薄めにワウをかけた音でちょこまか弾くみたいな人が多いけど、
Tashは和音のリフも結構多くて、そこが違いな気がするな。

(T)『Dream My Life Away』の冒頭のリフとかやろ?

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(T)こういう3度でハモる和音のフレーズはハードロックとかジミヘンとかそういうところからの影響を感じるから、「ネオソウルギター」の人たちとはルーツが違うのかもしれん。でも何故かネオソウル感も若干あるんだよな。

(M)タイム感じゃない?ロックのタイム感ではない気がする。

(T)それもやし、ギターソロらしいギターソロがなくて、主張しすぎないところにもネオソウルを感じる。

(M)ギターヒーロー然としたアルバムはないよね。 

ヒップホップとアンチヒップホップ

(M)ルーパーを多用したり、ヒップホップ的なアプローチは随所に見られるわけじゃん。

(T)そうやな。

(M)でも3曲目の『Greed』の歌詞を見るとめっちゃヒップホップ嫌いっていう。

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(T)「ルーパーを使う」ってアプローチがたまたまヒップホップと似通っちゃったってことなんじゃないかな。

(M)でも『Musk』のドラムは機械的な、ヒップホップっぽい質感があるし、
『Crop Circles』の8部音符で淡々と鳴ってるピアノとかヒップホップぽいっちゃヒップホップぽいんだよね。

(T)そういう解釈もできるな。

(M)でしょ、そういうヒップホップ的な音作りをしながら、
『Greed』では「お金じゃねえ、お金を稼いでもお金を稼いだだけだよ」と。

(T)なるほどね笑、長者番付で上に来るようなラッパー達を皮肉ってるんやろうな。

(M)思想的にはあんまりヒップホップ好きじゃないっていう。

(T)ヒップホップ的な音作りのアプローチをしていることと反してて面白いな。

インターネットが生み出した「全部自分でやる」系ミュージシャン

(M)Tashは作詞・作曲・プロデュース・ミキシング・マスタリングを全部自分でやってるらしい。

(T)すげえ…笑

(M)時代の流れというか、技術が進歩して全部自分でできるようになったのが大きいよね。

(T)Z世代とかミレニアム世代のアーティストはこういう人多いよな。

(M)インターネットが発達したことで、昔は音楽大学に行かないと分からなかったことが「Youtube見れば学べるよね」ていう時代になったからね。

(T)それはマジでそうやな。

(M)打ち込みとかがまだ主流じゃなかった頃は曲を作る工程が決まってたわけじゃん。
デモを作って、メロディとコードと詞を確定させた後に、バンドでアレンジを考えて、レコーディングして、ミキシングしてマスタリングして、世に出すっていう流れだったけど、今はミキシングまで行った後に「やっぱここの音入らねえわ、消そ」ってできる。

(T)そうね、でもそれは2000年代に入ったぐらいからできたことじゃない?

(M)うん、だから結構大昔の話だけど、例えばスタジオ・ミュージシャンを呼んでレコーディングした後に「やっぱ亀田誠治さんが弾いたベース全部無しで!」とかできないわけじゃん?笑

(T)確かに笑、プロデューサーと一緒にアレンジを考えていくプロセスがなくなったことに依って、だいぶフレキシブルにやれるようになったってことやな。

(M)そうそう、だから「全部自分でやる」っていう方法を選択できるようになった、技術的に。

(T)このアルバムの音を詰め込み過ぎな感じは、音の引き算を考えるプロデューサー的な人がいなかったから実現できた感じはあるよな。

(M)良くも悪くも、「全部自分でやる」からこそ100%自分の作品になって個性が出るって感じだよね笑

(T)おれらぐらいの年代の人はこういう人がどんどん増えてくるんやろうな。

(M)そうね、あとシンプルに金ないって話だよね笑

(T)それは間違いない笑

(M)我々世代は金がないから全部自分でやるしかない。
それは多分音楽に限らずで、Youtuberとかもそうじゃん、自分で企画考えて、出演して、編集して、マーケティングもするっていう。

(T)そう考えると「自分」文化を生み出したのはやっぱインターネットやな。

(M)そうそう、インターネットは偉大!

今週の1曲

『Something Has to Change』- The Japanese House

(M)今年の曲ではないけど、
The Japanese House の『Something Has to Change』かな、これ曲もPVも超好き。

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(M)バックのトラックと、エフェクターがかかったボーカルと、遠い感じのギターの音が全部綺麗に混ざってて統一感がある

(T)これギターだけ逆再生させてそうやな。

(M)冷たい水の中にいるみたいな感覚になるんだよね。

(T)最近こういう水・氷タイプみたいなアーティスト多いよな。

(M)氷タイプ笑、たしかにおれ昔からそういうの好きだわ。
The Cranberries も好きだし、The Stone Roses も好きだし。

(T)なるほど、UKの音楽が好きなんやな。

(M)UKはUKでも、土タイプみたいなやつより、氷タイプみたいな方が好き。

(T)土タイプってなに笑?

(M)Arctic Monkeys とか笑

(T)なるほどね、ちょっと暗いやつな。

(M)そう、そういうのよりも涼しい感じのやつが好き。
「あー涼しいー」って思いながら聴いてた。

(T)アメリカよりもUKとかヨーロッパ系の方が好きなんやな。

(M)アメリカの音楽はR&Bの方が好きだからな、インディーロック・オルタナよりも。
高校生の頃にオルタナって言ったらUKのしか聴いてなかったから、その影響もあるかも。 

『Close To You』- Dayglow

(T)じゃあイギリスつながりで今週の1曲出すわ。Dayglow の『Close To You』って曲。

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(T)めっちゃ The Style Council に似てるんよな。

(M)The Style Council は一時期聴いてたよ。

(T)あ、これアメリカの人やったわ笑、UKのちょい昔の感じが出てる。
全体的には boy pablo みたいなベッドルーム系のポップにまとめられてるから、聞きやすいんよね。

雑談:Spotifyを見ながら…

(M)Bruno Mars の『Leave the Door Open』を聴いた?

(T)聴いた、めちゃめちゃ良いよな~ほんまに。

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(M)Anderson.Paak もね、流石ですよ。

(T)Anderson.Paak のドラムもいいよな~。

(M)そういえば、Anderson.Paak の NPR のライブ見たことある?

(T)あるよ、Malibu のやつやろ。

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(M)これもう、なに?ってくらい良いよな。

(T)だいぶオーガニックな感じよな。
『Heart Don't Stand a Chance』のドラムのフィル好きやで。

(M)ミニマルで軽快な感じいいよな。あと服もかっこいい笑
これNPRのライブ映像の中で一番人気なんだな。

(T)そうやで、めちゃめちゃ再生されてるよな。
話戻すけど、『Leave the Door Open』のPV、最高よな~。

(M)2021年にこの曲とこのビデオを作ってくれてありがとうって感じ。

(T)サビでドラムがハイハットだけになるのかっこいいよな。

(M)たしかに。このドンタタタタッドンッってフィル、めっちゃ Anderson.Paak っぽいよね。ボーカルも味があっていい。

(T)Anderson.Paakの声、普通に好きやわ。
Cメロがめっちゃかっこいい。Curtis Mayfield とかそこら辺を意識してる感がある。

(M)スウィート・ソウル系ね。

(T)そうそう、Marvin Gaye とか。いや~良いPVやな~。

 (完)